「社内のマニュアルをAIに読ませたのに、質問の答えがズレる」
「結局、人が確認し直している。
これなら自分で調べたほうが早い」

こう感じて、導入したAIを使わなくなる会社があります。

ここで「AIは使えない」と結論を出す前に、確かめてほしいことがあります。
AIに読ませている資料そのものです。

答えが外れる原因は、AIの設定よりも、資料の側にあることが多い。
これが、現場で見てきた実感です。
この記事では、社長が自分の手でできる資料の棚卸しを、5つのチェックにまとめました。

なぜ、AIより先に資料なのか

社内の資料を読ませて、質問に答えさせる仕組みを、RAG(ラグ)と呼びます。

イメージは、AIに受けさせる「オープンブック試験」です。
本は持ち込み自由。
ただし、持ち込んだ本の中身が汚れていれば、どれだけ優秀な受験生でも点は取れません。

AIのモデルを高性能なものに替えても、設定を細かく調整しても、読ませる資料が汚れていれば、結果は変わりません。
順番は、資料が先、AIが後です。

資料の棚卸し 5つのチェック

チェック1 目次・索引だけのページを外す

目次のページは、項目名のキーワードだけがずらっと並んでいます。
機械から見ると、どんな質問にも「関係がありそう」に見えてしまい、検索結果の上位に出てきて、本来の答えを押しのけます。

  • 見分け方: ページを開いて、文章がほとんどなく、項目名とページ番号だけが並んでいたら該当です。
  • 対処: AIに読ませる対象から外します。

チェック2 スキャンの文字化けを直すか外す

紙の書類をスキャンしてPDFにした資料は、文字認識(OCR)が崩れていることがあります。
人の目には読めても、機械には意味の通らない文字の並びになっているんです。

  • 見分け方: PDFの文字を選択してコピーし、メモ帳に貼り付けます。
    意味の通らない文字が並んでいたら該当です。
  • 対処: 打ち直すか、読ませる対象から外します。

チェック3 崩れた表を直すか外す

表は、スキャンやPDFへの変換で、行と列の関係が崩れやすい部分です。
「どの数字が、どの項目のものか」が失われると、AIは正しい答えを返せません。

  • 見分け方: チェック2と同じようにコピーして貼り付け、項目と数字が正しい組み合わせで並んでいるかを見ます。
  • 対処: 表の内容を、文章に書き直します。

チェック4 古い版・重複を整理する

旧版と新版が同じ場所に置かれていると、AIはどちらを答えにすべきか判断できません。
「どれが最新で、どれが正式か」を決めるのは、社長の仕事です。

  • 見分け方: 同じ題名のファイルや、似た内容の資料が複数ないかを探します。
  • 対処: 旧版は読ませる対象から外します。
    今後は、ファイル名に版や日付を入れて管理します。

チェック5 「合格の基準」を書く

最後のチェックは、資料ではなく、社長自身の頭の中にあるものを書き出す作業です。

「この質問をしたら、この資料のこの部分が出てくれば合格」

この基準がなければ、AIの出した答えが良いのか悪いのか、判断できません。
次の章で、書き方を紹介します。

合格基準の書き方

必要なのは、3つの列だけの表です。

質問 出てほしい資料 出てほしくない資料
有給休暇の申請期限は? 就業規則の該当条文 旧版の就業規則、目次ページ
見積書の承認者は誰? 決裁規程の該当部分 文字化けしたスキャン資料

質問は、まず10本から始めます。
実際に社員が聞きそうな言葉で書いてください。
専門用語で書いた質問だけでは、現場の使われ方とズレます。

数字だけで判断しない

質問を用意したら、AIが探してきた検索結果の上位を、自分の目で見てください。

AIの仕組みには、「どれくらい関連があるか」を示すスコア(数字)があります。
このスコアだけで合否を決めるのは危険です。

ある導入先の検証で、専門用語、日常の言葉、境界線上、まったく無関係の4種類の質問、計21本のスコアを測りました。
結果は、日常の言葉での質問の最低スコアと、無関係な質問の最高スコアが、ほぼ同じ値でした。
数字の基準線では、関連と雑音を分けられなかったんです。

原因は、スコアの設定ではありませんでした。
目次のページ、文字化けした箇所、崩れた表が、検索結果の上位に出ていたことです。

なお、これは21本という小さな標本での結果です。
すべての会社に同じことが起きるとは限りません。
ただ、「数字を見て終わりにせず、中身を自分の目で確かめる」という手順は、どの会社でも変わりません。

どこまで自社で、どこから専門家に頼むか

ここまでの作業を、整理します。

社長がやること

  • どの資料をAIに読ませるかを決める
  • 5つのチェックで、汚れた資料を見つける
  • 合格の基準を書く

専門家に頼む範囲

  • 資料を検索できる形に整える仕組みの構築
  • 検索の精度の調整と検証
  • 顧客情報など、外部に出せないデータを扱う社内環境の構築

現場の資料を知っているのは、社長です。
どの資料が正式で、何が古いのか。
どの質問に、どんな答えが出れば正解なのか。
これは、外部の業者にも、AIにも決められません。

AIにも、外部の業者にも、丸投げは禁止です。
ただ、判断の材料を揃えたあとの構築と調整は、専門家に任せたほうが早く、確実です。

明日やることは1つだけです。
AIに読ませたい資料を3つ選んで、中身を自分の目で開いてみてください。
そこに何が書かれているのか。
それを知っているのは、社長だけです。

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