社長がAI導入で止まるのは、能力の問題ではありません。「止まっている人」を拾う仕組みの話
「うちの会社でも、AIを本格的に使ってみたい」
そう決意して、本を買ったり、セミナーに行ったり、実際にパソコンを新調したりした社長。ここまでは、かなりの方が到達します。
問題はその先です。
買ったところで、止まる。
新しいパソコンは机の上にある。手順書も手元にある。でも、なぜか最初の一歩が踏み出せないまま、二週間、一ヶ月と過ぎていく。そして「やっぱり自分には向いていなかった」と、静かに諦める。
私は今、経営者の方々にAI秘書の作り方をお伝えする講座を担当しています。参加されているのは、全員が現役の社長です。そして先日、講座の中間地点で「ヘルプ会」を開きました。この会でわかったことが、あまりに示唆に富んでいたので、社名も個人名も伏せた上でお伝えします。
半分が「終わっている」、半分が「止まっている」
ヘルプ会の冒頭で、参加者に今の進み具合を聞きました。結果はほぼ半々でした。
一方は、手順どおりに設定を終え、実際にAI秘書が動き始めている。もう一方は、どこかで止まったまま、そこから動けずにいる。
この差を「やる気の差」だと思う方がいます。違います。止まっている社長も、全員がやる気はあるんです。ただ、手順書に書かれていない、見えない前提条件のところで引っかかっている。それだけでした。
止まる場所は、だいたい決まっている
これまでの講座を通して、非エンジニアの社長がつまずく場所は、驚くほど共通していることがわかってきました。主なものは五つです。
一つ目は、開発ツールのインストールです。手順書には「これを入れてください」としか書いていない。何のために入れるのかがわからないと、途中で不安になって手が止まります。
二つ目は、保存場所(フォルダ)の指定です。画面のどこを押せば、自分のパソコンのどの場所を指定できるのかがわからない。
三つ目は、アカウントの認証です。IDやパスワードを求められた瞬間、「これは何のIDだ」と固まってしまう。
四つ目は、画像やアイコンの設定です。見た目の設定なのに、その画面がどこにあるのか見つからない。
五つ目は、そもそもどのパソコンでやればいいのか決められない、というものです。これが一番多いんです。
特に五つ目は根深いです。実際、講座とは別の場で、ある社長からこんな質問を受けました。
「使っていない古いWindowsのノートパソコンがあるんだけど、あれでも大丈夫か?」
答えは、大丈夫です。理由は、AI秘書の「頭脳」は社長のパソコンの中にはないからです。考える仕事はインターネットの向こう側で行われていて、手元のパソコンがやっているのは、指示を送り、結果を受け取り、ファイルを置いておくことだけ。だから高性能な機械は要りません。
そしてこの質問が、飲み会の席で出てきたという事実のほうが重要でした。質問できる場でなら聞けないことが、雑談の場では出てくる。ということは、同じところで黙って止まっている人が、他にもいるということです。
「止まっている人」を拾う仕組みが、必要です
ここが本題です。
止まる場所が決まっているなら、対策も打てます。実際、今回のヘルプ会では、長く止まっていた二人の参加者の問題が、その場で両方解決しました。何ヶ月も止まっていたわけではありません。ほんの数分でした。
なぜ数分で解決したのに、それまで動けなかったのか。聞ける場所がなかったからです。
これが、AI導入における一番の壁の正体だと私は考えています。技術の壁ではなく、「わからないと言える場所があるかどうか」の壁。
そして皮肉なことに、社長という立場は、この壁が最も高い立場でもあります。社員に「これがわからない」と言いづらい。取引先には当然言えない。だから一人でパソコンの前で固まったまま、時間だけが過ぎていきます。
先に進んだ社長は、こうしていた
一方で、講座の想定を大きく追い越して進んでいる社長もいました。自分で機材を用意し、カレンダーやメール、社内チャットまで連携させ、毎朝と夕方に要約が届く仕組みを自力で完成させていたのです。
その方が報告してくれた、最初のつまずきが実に象徴的でした。設定を終えたのに、何も届かない。原因は――画面上の確認ボタンを押していなかった、それだけでした。
これを聞いた他の参加者の空気が、明らかに変わりました。「先を行っている人でも、そんなところで詰まるのか」と。この安心感が、止まっていた人たちを動かします。
一人でやっていたら、この情報は絶対に手に入りません。同じ立場の経営者が集まり、つまずきを共有する場があるからこそ、拾える情報です。
社長がやるべきは、「一人でやらない」と決めること
AI導入で成果を出す社長と、途中で止まる社長。両者を分けるのは、ITの知識量ではありません。わからなくなったときに聞ける場所を、あらかじめ確保しているかどうかです。
私は常々、AIへの丸投げは禁止だとお伝えしています。経営のハンドルは社長自身が握るべきです。ただし「一人で握れ」とは一言も言っていません。ハンドルは自分で握りながら、隣に道を知っている人を乗せておく。これが最も確実です。
この講座も、参加者一人ひとりが自分の会社のAI秘書を自分の手で作るという方針は変えていません。変えているのは、途中で止まった人を必ず拾いに行くところです。だから中間でヘルプ会を挟みますし、質問板も常時動かしています。
もし今、「AIをやろうと決めたのに、何ヶ月も止まったままだ」という状態にあるなら、必要なのは新しい情報でも新しいツールでもありません。聞ける場所です。
この考え方を、一冊にまとめました
ここでお伝えした「一人でやらない」という考え方を、体系立てて書いたのが新刊『社長、御社に足りないのはAIではなく「伴走者」です。』です。
中小企業のAI導入率は20.4%まで伸びました(中小企業基盤整備機構調べ・2026年3月)。しかし本書の第1章で書いたとおり、その数字の中身は空っぽです。ChatGPTを開いたことと、AIが会社の中で動いていることは、まったく別の話だからです。
本書ではさらに、AIプロジェクトが静かに止まる五つの理由、社長専属の「自社AI秘書」に最初に任せるべき五つの仕事、そして90日で進める顧問型の導入手順まで、実際の相談現場で使っている進め方をそのまま書いています。プロンプト集ではありません。社長が自分でハンドルを握るための本です。
講座について
この社長向けAI秘書講座は、アルマ・クリエイション株式会社(船井総研グループ)の「The実践会」(神田昌典さん主宰)の中で開講しています。参加されているのは、業種も規模もさまざまな現役の経営者の方々です。
The実践会では、AI活用に限らず、経営者同士が実践事例を持ち寄って学び合う場が継続的に用意されています。ご興味のある方は、The実践会 インパクト会員の案内をご覧ください。
もし「まず自社の状況を整理したい」「何から手をつけるべきか相談したい」という段階であれば、当社へ直接お問い合わせいただいても構いません。名古屋を中心に、これまで2,000件以上の中小企業のご相談をお受けしてきました。
変革は創造から。まずは、止まっている場所を言葉にするところから始めましょう。
「うちも、どこかで止まっている気がする」と思ったら
AI導入は、決意でも根性でもなく、聞ける場所があるかどうかで進み方が変わります。まずは今どこで止まっているのかを、言葉にするところからご相談ください。
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