「まだこんなテーマの研修は難しいんじゃないか」

正直に言うと、豊川商工会議所さんから今回のご依頼をいただいたとき、私の頭の片隅にはそんな不安がありました。
参加企業は多種多様、AIに対する温度感もバラバラ。
しかも当日の参加者は38名です。
1人にじっくり教える個別指導とは、わけが違います。

でも、結論から言います。
その不安は、良い意味で裏切られました。

先日、豊川職業能力開発専門学院にて「全社生産性アップ!AIアシスタント仕事術」というテーマで、3時間のセミナーを担当させていただきました。
今日は、その現場で何が起きたのか、そして中小企業がAI研修で失敗しないために何を準備すべきなのか、生々しくお伝えしたいと思います。

「ハンズオン形式」が招いた、想定外の壁

今回のセミナーは、ただ話を聞くだけの講演形式ではありません。
参加者自身のPCで、実際にGmailとGeminiを連携させて自動返信を作ったり、議事録を自動化したりするハンズオン形式です。

「習うより慣れろ」の考え方ですね。
AIは、触ってみないことにはその威力が分からない道具です。
これは、包丁の使い方を口頭だけで教わって料理が上達しないのと、まったく同じ理屈なんです。

ところが、このハンズオン形式には、事前に乗り越えるべき壁がいくつも立ちはだかりました。

壁その1:定員35名が、あっという間に埋まった

当初、豊川商工会議所さんとは受講上限35名で調整していました。
ところが、蓋を開けてみると、この定員があっという間に埋まり、キャンセル待ちまで発生する事態に。

ここで、担当さんから「もっと広い会場に移して、定員を拡大できないか」というご相談をいただきました。

私が真っ先に考えたのは「人数を増やすなら、講座の中身を変えなければならない」ということです。
個別に手取り足取り教える形式のままでは、講師1人の目が行き届かなくなり、置いてけぼりになる方が必ず出てきます。

そこで、ペアワーク・グループワーク形式に構成を変更し、隣同士で教え合いながら進められる仕組みに切り替えました。
加えて、商工会議所の職員さん2名にも会場サポートに入っていただく体制を整え、最終的に38名という規模での実施が実現しました。

壁その2:レンタルPCのスペック、確認していますか?

これは、AI研修を企画する上で、意外と見落とされがちな盲点です。

参加企業の中には、会社支給のノートPCを社外に持ち出せない、あるいはデスクトップPCしかないという方が一定数いらっしゃいます。
そこで会場側でレンタルPCを手配していただく話になったのですが、私はここで一つ、強くお願いをしました。

「スペックの低いPCだけは、絶対に避けてください」と。

安価なレンタルPC、特にCeleron・メモリ4GB程度のマシンでは、ブラウザで複数タブを開きながらGeminiやNotebookLMを操作すると、確実に動作が重くなります。
そうなると何が起きるか。
せっかくの体験型セミナーが、「PCが遅くてイライラする会」に変わってしまうんです。

結局、最低でもCore i3・メモリ8GB以上のスペックを条件として再提示し、快く対応いただきました。
この手のディテールを詰めずに当日を迎える研修が、実は世の中には多いんじゃないかと思います。

壁その3:「Googleアカウントが作れない」という現実

一番驚いたのは、これでした。

受講予定企業の1社から「Googleアカウント作成に必要な電話番号の2段階認証で困っている」というご相談が届いたんです。
事務担当者の方に会社携帯の貸与がなく、かといって私物の携帯電話を使わせるわけにもいかない。
至極まっとうな懸念です。

私は最初、「商工会議所名義でアカウントを2〜3個作って、複数人で共有すればいいのでは」と考えました。
ですが、これは危険な提案でした。
Googleは同一アカウントへの複数人・同時多数ログインを、不正アクセスの疑いとして検知する場合があります。
もしセミナー当日にアカウントがロックされたら、目も当てられません。

最終的にたどり着いたのが、会社の固定電話番号を使い、Googleの2段階認証を「音声通話」に切り替えるという、公式に用意された正規の手順でした。
固定電話に自動音声で認証コードが読み上げられるため、私物のスマートフォンは一切不要になります。

「AIアシスタント仕事術」というテーマの裏側で、実はこうした地味な準備が山積みだったわけです。

当日、会場で起きたこと

準備をこれだけ重ねた甲斐あって、当日は大きなトラブルもなく、3時間のプログラムを無事に終えることができました。

Gmail×Geminiでのメール返信自動化から始まり、会議の議事録自動化、データ分析、資料作成の効率化まで、38名の参加者にペアワークで実際に手を動かしていただきました。

もちろん、想定外のこともいくつか起きました。

会議メモをGeminiで自動化するワークの最中、一部の受講者の画面で、頼んでもいないGoogle Keepが突然呼び出され、エラー画面が表示されるという出来事がありました。
原因は、プロンプトの書き方です。
AIへの指示というのは、日本語として通じていれば何でもいいわけではありません。
曖昧な言葉が、AI側で意図しない別の機能を呼び出してしまうことがあるんです。
その場で適切なプロンプトへの書き換えを一緒に確認し、無事に解決しました。
これは、私自身にとっても良い教材になりました。

もう一つ、これは完全に私の反省点なのですが、提案資料づくりのワークに差し掛かったところで、つい熱が入ってしまい、予定していた時間を少しオーバーしてしまいました。
ここは私の得意分野で、伝えたいことが山ほどあるんです。
参加者の皆さんの反応が良かったのが救いですが、次回はこの熱量と時間配分のバランスを、もう少し冷静にコントロールしなければと思っています。

セミナー終了後、ある企業の担当者の方からいただいた言葉が印象に残っています。

「AIは若手や情シスの仕事だと思っていたけど、今日やってみて、これは経営全体の話なんだと分かりました」

これなんです。
これがAI活用の本質だと、私は思っています。

AIは、道具です。使い方を決めるのは経営者です

セミナーの現場で私がいつもお伝えしているのは、AIそのものの操作方法だけではありません。

AIは、電動ノコギリと同じです。
優れた道具ですが、それを使ってどんな家を建てるかを決めるのは、大工ではなく施主です。
同じように、AIをどう使い、どこまで社内に浸透させるかを決めるのは、社長であるあなた自身の仕事なんです。

「うちは35名の予定だったのに、38名になってしまった」「PCのスペックまで気にしないといけないのか」「Googleアカウント一つ作るのにこんなに苦労するのか」――こうした一つひとつの壁は、確かに面倒です。
ですが、これを乗り越える覚悟を持って準備した会社だけが、社員が本当に「使える」研修を手に入れられるんです。

丸投げでは、AIは絶対に根付きません。
これは断言できます。

豊川商工会議所の皆様、そして参加してくださった38名の受講者の皆様、貴重な機会をありがとうございました。
この経験を、また次のセミナーへと活かしていきたいと思います。

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